―人々を魅了した60年代 アメリカのボタンダウンシャツ、鎌倉シャツの技術で復刻。

ボタンダウンの誕生は、ポロ競技中に風ではためく襟先にボタンを付けたことからだと言われています。
アメリカではカジュアルダウンしたシャツを”SPORT SHIRT”と呼ぶことから、
今回、芯地の無いボタンダウンシャツを作るに当たって「SPORT~スポート」と名付けました。

当時のディティールを追及しながらも、ボディは「マンハッタンモデル」を採用し
懐かしさと新鮮さを併せ持ったハイブリットなボタンダウンシャツ。

シャツを研究し続けた鎌倉シャツ自慢の新シリーズ、「SPORT」をどうぞお楽しみください。

芯地がないことで柔らかいロールが出来上がります。ロングポイントのボタンダウンは「SPORT」を作成するにあたって縫製の難易度が非常に高く、こだわりが強いポイント。

前立ては少し太めに、カフスの縦幅を少し短く。襟と同様、芯地なしの縫製で、より一層雰囲気を醸し出します。
※カフス周りの大きさは変わりません

マンハッタンモデルを採用。特長である前ふりの袖は、自然な腕の位置を研究し、形にしたもの。
腕の可動域をひろげるだけでなく、ジャケットの袖口の傾斜に合わせてカフスが覗くよう設計されています。

ヨークを通常よりも2㎝狭くすることで、エレガントなムードが後ろ姿からも漂います。

SPORTの縫製を手掛ける工場は現状1社のみ。
こだわりの商品をつくるために、選ばれた1社。
VAN Jacket時代にボタンダウンを作製していた過去もあり、
30年経った現在もしっかりとその歴史が受け継がれています。
ノウハウを活かした貴重なシャツが出来上がりました。

Made in Japanの細かいものづくりと、
アイビーテイストのラフさを融合する難しさが現場から伝わってきました。
心を動かす一着になるように、
今までのシャツとは全く違うということを念頭において縫製に取り組んでいただいています。

今までの襟のパターンを「SPORT」では一新。鎖骨のカーブを考慮した技巧的なパターンを改め、棒襟のものを使用しています。カーブのないパターンから生まれる縫製ズレこそ、それぞれのシャツがもつ味なのです。
「SPORT」一番のポイントは芯地を使用していないこと。通常であればフラシ芯が使用される襟、カフス、前立ての芯地を取り除くことで、昔ながらの柔らかい仕上がりを実現しました。芯地は縫製工場にとって縫製を導くツールであり、芯地がない状態で縫うことは物差しがない状態で線をひくようなもの。また、様々なパーツを縫い合わせていく上で、芯地に縫いつける過程が一度あると、形を整えてから製品として縫い合わせていくことが可能になります。芯地がなければ言わばぶっつけ本番。熟練した技術がないとできないのです。
更に前立て部分にはもう一つのこだわりが。通常であれば、前立てとなる部分を別ピースで縫製し、最後にボディーに縫い付けます。「SPORT」では芯地のないソフトな仕上がりを活かすために“似せ前立て”を用いています。似せ前立てとはボディーのパネルを折りこみ、前立てに見せたもの。折る位置を正しく見極め、仮縫いもなく縫うには、長年培ってきた経験が頼りになります。
完成されたシャツがもつ雰囲気は、仕上げにもかかっています。縫製が終わった製品は常温の水で洗われ、生地は更に柔らかくなります。ただ、「SPORT」はタイドアップで着ることができるビジネスシャツであるため、最終プレスは高温の170℃。きっちりとアイロンを当ています。
「ボックスプリーツのタックは5mmほど下げて、ヨークに触れないように。」
細かい縫製の指示を忠実に遂行できることが国内生産の強みです。ただし、個体差こそ今回の「SPORT」の良さ。指示書通りの商品を目指しながら一着一着の表情を大事にする。その正しいバランスを縫製する全てのスタッフが理解する必要があるため、量産の実現が困難な商品でした。

最後にものづくりの現場の声を。
「復刻版である、芯なしのボタンダウンの襟型がお客様にどのように捉えられるのか、楽しみでもあり、ちょっと不安でもありました。我々の強みはとにかく真面目。真面目にものづくりをし、いただいた指示を忠実に再現します。日本のものづくりは細部まで丁寧に仕上げることを大事にしてきたので、日本人は手先が器用です。分業でも一着一着綺麗な仕上がりになることを自負しています。

1896年から脈々と受け継がれるボタンダウンは、
いつの時代も僕たちの心をつかんで離さない“アメトラ”の代表的なアイテム。
鎌倉シャツスタッフが選んだB.D.エキスパートたちを”アイビー”の巨匠二人が解説します。

絵 グレアム・マーシュ/文 くろす としゆき

フレッド・アステア 俳優(1899 - 1987)

ハリウッドスターのウエルドレッサーを挙げれば、常にベスト5に入るおしゃれさん。彼を代表する着こなしと言えばシルクハットに燕尾服。映画『パリの恋人』(’57)ではA・ヘプバーン相手に、ボタンダウンをいとも華麗に着こなして見せた。

アーサー・ミラー/劇作家(1915 - 2005)

いま思えば、ミラーとM・モンローが夫婦だったなんて信じられない。残念ながら長くは続かず61年離婚。新婚時代(’56)のミラーは完ぺきなトラッド・ルック。ジャケット、ボタンダウン、ネクタイ、ポケットチーフなど最強のコーディネート。

マイルス・ディヴィス/ミュージシャン(1925 - 1991)

ジャズ界の帝王を自認するディヴィスは、音楽においても服装でも常に最先端でなければ気がすまない。前衛ファッションで有名だった彼が、伝統的ボタンダウン・プルオーバーを着ている珍しい写真(’59)が残る。ボタンダウンがトレンドだった名残。

ウディ・アレン/映画監督・俳優(1935 - )

映画俳優としては珍しいトラッド系。ツイード・ジャケットにコーデュロイ・パンツがよく似合う。このテーストは、好きでなければ続けられるものではない。ボタンダウンがしっくりおさまっている。映画『何かいいことないか子猫チャン』(’65)より。

マシュー・マコノヒー/俳優(1969 - )

映画『評決のとき』(’96)でマコノヒーは新米弁護士役を熱演。彼の職業を表現するのに、知的職業かつ、エリートらしき服装が用意された。白のボタンダウン(オックスフォード地と思われる)、黒のニットタイが彼の履歴を物語る。

パトリック・J・アダムス/俳優(1981 - )

スクリーンやTVからボタンダウンが消えて久しい。50年代はトレンドだったが、いまや保守派を表現するシャツとなった。アダムスはドラマ『スーツ(訴訟)』(2011)で、大手法律事務所に経歴詐称で紛れ込んだ無頓着な新米弁護士役。らしい着こなし。

グレアム・マーシュ コラボ商品
「VINTAGE INY COLLECTION」はこちら>

くろすとしゆき コラボ商品
「あいびぃ あーかいぶす」はこちら>

メーカーズシャツ鎌倉は、メンズ業界では稀なアイビーファッションに精通する「VAN Jacket」のトラディショナルなDNAが真髄にあります。そのDNAを持ち合わせながら、ヨーロッパのクラシコスタイルも得意とし、イタリアンテイストなスリムフィットを台頭にブランドは進化したのです。

そこで昨年から”Back to Basics”、原点回帰を掲げ、トラディショナルなシャツの一大研究に取り組んでまいりました。アメリカントラディショナルを極めようとすると、いままでの商品のベースにあるパターン理論から全く異なってきます。細かい縫製のコツなども、いま販売しているマンハッタンモデルとは真逆のものでした。

新しいボタンダウンの大きな違いは、襟・カフス・前立て部分に芯地を入れていないことです。芯がないことにより、ものすごくナチュラルな、自由な雰囲気と着心地になります。芯を入れないで縫製するということは技術的に相当難しく、日々の縫製習慣と全く異なることから国内の縫製工場では量産が難しいのが現状です。本場アメリカでも相当に限られた製法です。縫う時に芯地を定規代わりに縫製しているのですが、それが全くできない。通常であればミリ単位の精度を求める仕組みを取っている国内縫製で、芯地を使わずあえてラスティックなことをする難しさ。それは同時に日本の素晴らしい職人気質を再認識する機会でもありました。

鎌倉シャツを創業当時から支えてくださっている工場に、芯なしで縫製をしていたノウハウが残っており、様々なアドバイスをいただきました。プレスなどの仕上げに関しても、当時を知る職人の方に昔を思い出してもらいながら教えていただきました。

また、襟羽根の長さについてもかなり悩みましたね。他社をみると小ぶりな襟になっていますが、剣先等を小さくするとカジュアルテイストに偏ってしまうので、タイドアップで、ドレスシャツとして兼用できる復刻版として、本来の長さを保ちました。

今回新登場のSPORTはどの世代も求める商品です。往年の世代には、鎌倉シャツがあの頃の『本物』のボタンダウンを作ってきたなと思っていただき、セレクトショップ文化とともに育った我々団塊世代ジュニアは、イタリアンスタイルにアメリカンテイストをミックスして楽しめます。若い世代の方には、トラディショナルでありながら、いままでにない着用感がとても新鮮なのではないでしょうか。カジュアルでもあり、ドレスでもある汎用性を備えて、全世代にあらゆるスタイルで楽しんでいただきたい。そんな想いとともに、じっくりと大切に、今後もSPORTの製品づくりに携わってまいります。

鎌倉シャツ プロダクションディレクター 宮澤 直樹

良いものづくりをしている洋服には内外問わず、何とも言えない“いいね”と感じる“顔”があります。

業界に入り、長いことショウウインドウディスプレイやカタログ製作に携わって来ました。どちらも商品の魅力を最大限に引き出す仕事です。

私が業界に入ったのはあの「VAN Jacket」が終焉を迎える1978年の少し前です。学生の頃から憧れていたブランドだったので、大きなショックを受けたのですが、当時の日本にはVANを頂点にして様々なアメリカンファッションのブランドが有りました。その多くはVANの発信や海外ファッション誌などから情報を得ていた様に思います。 1960年代日本のファッション業界は手探り同然でIVYファッションを世に広めた事は凄いことだと思います。

その後、業界人や当時のお洒落さんは当然のように本物を目指します。かく言う私もその1人でしたが、アメ横にあった「ミウラ and サンズ」※ など(※のちの「SHIPS」)当時MADE IN USAの商品を扱うお店に頻繁に通い詰め“トップサイダーのスニーカー”“ラフヒューンのチノーズ”“コールハンのローファー”など、希少なMade in USAの商品に目を輝かせました。当時は高価でしたから、中々手に入れる事が出来ませんでした。

そんな中、出会ったのが“ギットマンブラザーズのオックスフォードのボタンダウンシャツ”です。小ぶりで美しく立ち上がるロールを持った襟。こなれた感じのホワイトオックスフォードの生地に清潔感すら感じさせるグリーンのブランドラベル。それは何とも言えない“良い顔”でした。

そんなことで、“良い顔”を持ったホワイトOXのボタンダウンは、グレーサクソニーやカーキチノーズ、ワンウオッシュデニム、シアサッカーなどのトラウザーとの組み合わせで大活躍し、当然のごとくワードローブの中でヘビーローテションとなったのです。

話の中に何度も“良い顔”が出てきますが、今や当たり前の様になったホワイトオックスのボタンダウン。シンプルで有るからこそ、その何とも言えない、”良い洋服の持つ顔”が大事と思うのです。

さて、ここからが本題ですが、私たちが新たに提案するボタンダウンシャツ「SPORT」を始めて見た時、あの美しい“顔”を持ったボタンダウンとの出会いの様な感動がフラッシュバックの様に蘇り、そこには、憧れのAMERICAがありました。 当時のアメリカのシャツには立体的な縫製などはあまりなく、割と大振りで、小柄な日本人にはアンバランスなものでした。 この「SPORT MODEL」には人体の立体を解析し、ナチュラルにフィットするボディバランスを取り入れているところも嬉しいところです。

当時を再現した芯なし襟、カフスや細部の仕上げ、いまや、それを上手く縫える職人も少ないと聞きます。工場を訪れ感動したのは、お店に並ぶときの“顔”になる畳み姿にも、当時を知る数少ない職人が一枚一枚手間をかけ、商品の“良い顔”を再現していることです。

私が感動したように、当時、たくさんの“良い顔”の洋服に触れてきたボタンダウン愛好家の皆様にぜひともワードローブに加えていただきたい一枚です。

鎌倉シャツ ヴィジュアルマーチャンダイザー 林邦生

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