昨今SDGsで注目されているオーガニックコットン。
世界中で栽培されていますが、トルコで採れるオーガニックコットンは色ムラが少なく、品質が安定しています。

その生地にマッチする薄く柔らかいフラシ芯と、蛍光剤をなるべく使わず染めた優しいホワイトとブルー。
まるで綿花を触っているような風合いのドレスシャツが完成しました。

━今回発売されるオーガニックコットンは一体どのようなものなのでしょうか？

オーガニックコットン製品はタオルやTシャツなどがメインで、昔からありました。昨今はSDGsで注目されていますね。「有機栽培されたコットン」のことで、簡単に言うと「環境にやさしい」です。

今回のシャツは、トルコ産のオーガニックコットンを使用しています。オーガニックコットン自体は現在、世界中いろんな所で栽培されていますが、トルコでは約10年前から、高品質なオーガニックコットンを栽培するプロジェクトが始まりました。

━品質を重視したオーガニックコットンの栽培は、かなり最近の出来事なのですね！

そうなんです。噂を耳にしてから、トルコで採れるコットンとはどんなものなのかと、ずっと気になっていました。
2015年くらいに日本にトルコ産の良いコットンが入ってくるようになったんです。鎌倉シャツは生地メーカーと直接やりとりしているため、この情報をいち早くキャッチし、この繊維（コットン）を使ってどんな生地にするか？と何度も話し合いました。

トルコで採れるコットンは汚れが少なく品質が良いということが分かったのですが、オーガニックコットンは超長綿*ではないので、細い糸を引くことはできない。その頃の鎌倉シャツは、超長綿の可能性を追求している時期でもありました。

*超長綿・・・綿花の中でも非常に長い繊維のことを指し、通常よりも細くしなやかな糸を引くことができます。

━当時、鎌倉シャツでは、カジュアルなものよりも、ドレス・ビジネス向けの提案に力を入れていて、貴重な原料を贅沢に使ったような企画が多かったのでしょうか？

そうですね。美しくて、着る人をクラスアップしてくれるようなものへの需要を意識していて、より複雑で難しい取り組みに精を出していました。
今回のオーガニックコットンプロジェクトはそうした価値観とはちがい、技術を詰め込んだ贅沢品というよりも、技術的には極めて一般的な40番手や60番手などの糸を使って、きれいな原料の良いところをどうやって活かすかを考えました。

━なぜ、このタイミングでオーガニックコットンシャツを作ったのですか？

鎌倉シャツがオーガニックコットンを扱い始めるのは、市場ではものすごく後発だと思います。製品化するチャンスがなかったわけではないのですが・・・。
10年前のトルコのプロジェクトを聞いたことが一つのきっかけになりました。2年ほど慎重に研究と試作を繰り返していたら、この綺麗なトルコ産のオーガニックコットンでドレスシャツを作ってみるイメージが見えてきたんです。

━オーガニックコットンでドレスシャツ。難しい挑戦だったのでは？

正直、今までオーガニックコットンには品質の良いものという印象がありませんでした。不純物が混じっていたり、品質のムラがあったり。とある国では、オーガニックコットンと偽って、有機栽培されていない綿花を売った畑がニュースになっていました。
そうした意味でハードルを感じていました。でもトルコ産のオーガニックコットンプロジェクトを聞いて、私たちも「いけるかも！」と感じました。そして、その良さが製品テストなどを通して分かっていきました。

━このシャツを見た時に、価格に驚きました。オーガニックコットンは高いイメージでしたが、なぜ5900円という価格でできたのですか？

　この数年、SDGsが制定されてから一気にオーガニックコットンの引き合いが強くなりました。私たちはこの昨今のバブル的な価格高騰の直前に製品テストなどが完了し、なんとか仕入れることができたんです。

━ナイスタイミングでしたね！今後このシャツが売り切れた時に再入荷する可能性はありますか？

恐らくこの春夏シーズンで使い切ってしまうと思います。量も限られていますし、次の話もしてはいますが、その場合はこの価格ではご用意できない可能性が高いです。

━売切れ御免なのですね。
今回作成したシャツのバリエーションを教えてください。

まずブロードクロス（ポプリン）と呼ばれる、60番手単糸の生地です。普段は双糸を使うことが多いですが、今回は単糸を使うことで普段私たちが販売しているブロードよりも、少し薄くソフトに仕上げました。白とサックスブルーの2色で、襟型は人気のFRANCESEです。

そしてオックスフォード生地は白とサックスブルーの2色でボタンダウンシャツをご用意しました。40番手引き揃え×10番手単糸です。いつものオックスと同じですが、フィニッシュが違います。

━フィニッシュとは？

2つの意味があります。まず、生地の仕上げ。簡単に言うと、表面を固くするのか、ソフトにするのかということ。もう一つは、生地を切って縫製していくときの細かい工夫ですね。
このシャツに触れた時に、原料である綿花を触った時のやわらかい風合いをそのまま持ってくるようなイメージで仕上げることに取り組みました。

━たしかに、生地が柔らかくて、いつものシャツとはたたんだ時の感触が違いました。そういうことだったのですね。

私たちは綿にこだわってやってきたので、普段のシャツでも、充分にコットンを感じていただけますが、それ以上に細かくこだわって、とにかく自然に仕上げました。

━他にもこのシャツのこだわりポイントがあれば教えてください。

シャツの襟やカフス（袖口）には芯地というものが入っています。
ここはジャケットから覗く面積が大きい部分なので、見た目の印象を左右します。芯地が硬いほど、フラットできれいに見えやすいのですが、このシャツは綿の風合いをそのまま伝えることを目指したので、芯地もなるべく薄く柔らかいものを使用しました。
結果として、どこか力の抜けた良い雰囲気になったと思います。

細かい話になりますが、縫製の工程では、水洗いしたら落ちる糊を使って、芯を一時的に貼り付けて縫うことも多いのですが、この商品はその糊も使わず、いわゆる完全フラシの状態（芯が表地から浮いている状態）で縫製をします。そのため、仕上がりは何回か洗った後のような、柔らかい雰囲気を、店頭で手に取った時から感じていただけます。

襟が柔らかいからこそ、立体感や陰影が生まれ、自然で親近感がある雰囲気になります。 そして芯地が薄く柔らかいことで、単純に首へのストレスも少なくて快適です。 数日着てみて快適です。やっぱりいつものドレスシャツと違うな、と僕は思いました。

━仮の糊付けも行わない、完全なフラシ芯ということですね。
ステッチ（縫い目）の雰囲気もいつもと違うように感じたのですが、何か工夫しているのですか？

芯地にもいろいろとありますが、このシャツの芯地は、表面が起毛したものを使用しています。
そうすると、表の生地と芯との間に空気の層ができます。ミシンで縫うと、その層が押されて、縫い糸が沈み込みます。これも何回か着た後のような、自然な雰囲気に繋がります。

━そんなところまでこだわっているのですね！細部へのこだわりから、大道さんのこのシャツへの愛情をすごく感じています。
でも、縫製工場さんは縫うのが大変なのではないでしょうか？

そうですね（笑）。
縫製技術の高い工場さんにお願いし、何度も打ち合わせを重ねて課題を1つずつクリアにしていきました。

━このオーガニックコットンはトレーサビリティ*などはあるのですか？

トルコ産のオーガニックコットンは、すべてトレーサビリティが確約しています。2012年という比較的近年に始まったプロジェクトだからこそ、彼らもトレーサビリティにはすごく気をつかっています。
綿の品質だけでなく、どこの畑で作られているかということが管理されていること、それ自体が品質の一部となっています。

*トレーサビリティ・・・製品の原材料の調達から生産・消費・廃棄まで、追跡が可能な状態にすること。

━トルコ産オーガニックコットンはトレーサビリティが担保されていることが大前提なのですね。
今、自然光で見ていますが、このシャツの色合いがすごくきれいです。

綿というのは本来少し黄色がかっているので、蛍光増白剤で青白く見えるような加工をすることが一般的です。
しかしこのシャツは、加工はなるべくやめてナチュラルな白さを追求しました。

━人工的でない、ソフトな白ということですね。

お店のライトでは少し黄色く見えるかもしれませんが、自然光で見ると優しくてきれいな白なんですよね。
ブルーも普段の青よりもすこし黄色がかっているような・・・、手を加えずにつくった、自然な色です。

━なじみの良い、優しくて自然な青ですね。

そうですね。コーディネートもしやすいと思います。

━ブロードのFRANCESEとオックスフォードのボタンダウンがありますが、スタイリングのポイントは？
大道さんは、今日は白のFRANCESEを着ていますね。

僕は、春物の軽いジャケットで合わせました。
基本的に天然繊維がおすすめで、表面に凹凸のある素材のジャケットなども相性がいいです。
スーツスタイルの場合は、光沢の強いドレッシーな素材よりは、少し表情のある素材、例えばリネンが混紡されたものや、コットンスーツなども合うかと思います。
極めてベーシックなシャツですので、何にでも合うと思います。個人的には、このシャツは「きれいなんだけど、カジュアルで身近な感じにも着られるシャツ」と思っています。

━何度か洗ったシャツのような自然な風合いのシャツということですので、洗濯も家でのケアが良さそうですね。

クリーニングをしてはいけないわけではありませんが、このシャツの風合いをより愉しんでいただくには、家でネットに入れて洗濯して、日陰で干すというケアが最適です。シャツが長持ちします。
オックスフォードは、洗いざらしでアイロンせずに着てもいいと思います。

━最後に大道さんの想いをお願いします！

僕自身、ドレスアップするためのシャツはたくさん持っていましたが、最近はドレスアップする機会も少なくなりました。そんな時に、肩肘張らないで着られて、ドレスアップもできるようなシャツがあったらいいな、と感じていました。かといって、カジュアルシャツとは違うシャツを作りたかったです。

綿花を触っているかのようなソフト感を持つ、満足のいくシャツが仕上がりましたので、ぜひお客様にもお試しいただきたいです。