鎌倉シャツにはスタッフの間で“巨匠”と呼ばれるVMDのエキスパートがいる。
ファッション業界でのキャリアは45年、そんな巨匠が惚れ込むネクタイ、“フレンチコレクション“の魅力に迫る。

━フレンチコレクションの特徴について

林　フレンチコレクションのネクタイは南仏のとあるブランドからバイイングをしています。
トラッドをベースにして、南仏の洗練されたエッセンスが加えられているのが特徴ですね。

このネクタイを見てもらうとわかるのですが、非常にトラッドでクラシックな柄をしているのに、鮮やかな色づかいや、表情深い素材選びにヨーロッパらしいテイストがある。
他のメーカーやファクトリーにはない、このフレンチコレクションにしかない雰囲気を持っています。

いわゆる「フレンチトラッド・スタイル」といったところなのですが、トラッドスタイルを経てきた私たち世代にはこだわりを感じ、とても魅力を感じます。

特に色に目を向けてもらうと、このメーカーの拠点であるニースの海の色、空の色、緑、砂の色、など自分たちのライフスタイルの中で感じている自然な色をネクタイに反映しています。

このフレンチコレクションのメーカーとは前職からの長い付き合いになるのですが、長きにわたり独自のモノづくりを続けているという印象があります。
中でも南仏の海から発想するブルーの発色は他にはない美しさを感じます。

洋服とライフスタイルは切っても切れないものですが、それを感じられる洋服からは、VMDでディスプレイを組むときも、たくさんのストーリーがイメージでき、すぐにコーディネートが湧き出てきます。

━結んだときのシルエットが他のネクタイとは違って見える理由は？

林　最近ではあまり作るメーカーが少なくなった、「ボトルシェープドタイ」と呼ばれるシルエットをしています。
大剣の真ん中あたりがワインボトルのように膨らんだシルエットをしていて、結び目がコンパクトにまとまり、大剣先にかけて滑らかに流れる曲線が美しい。
クラシックなスーツスタイルやジャケットスタイルによく合うんです。

前述のようにクラシックな柄に南仏の色づかい、素材づかいが掛け算されていて、さらにボトル形状の絶妙なデザインによって、シャツの襟羽の間にすっきり収まる結び目ができて、ボリュームが生まれる。

良い服の美しさを知り、独自の魅力を追求していて、洋服通にはたまらないメーカーですね。

━今日のコーディネートはどういったテーマですか？

林　フレンチコレクションの定番である「シンプルだがバランスが絶妙」なストライプタイをつかって、ビジネスカジュアルでも通用するようなフレンチスタイルにまとめてみました。

特徴である鮮やかなネクタイのブルーを活かして、ギンガムチェックシャツ、コットンジャケットでトーンオントーンでまとめ、ボトムは乾いたベージュのコットンツイル・トラウザーズ。ソックスも鮮やかなブルーです。

━長年クラシックなドレスウェアを扱ってきた経験から、昨今のクールビズ、ニューノーマルといったビジネスウェアのスタイルについてどう感じていますか？

林　クールビズやニューノーマルスタイルについて結論を先に言ってしまうと、個人的には肯定派です(笑)
ただそれは「相手に対する礼節を最優先にする」ということは欠かせないという条件の上で、です。

なぜなら「ビジネスウェアは結果が伴う服であるべき」と個人的に思うからです。
例えば洋服のスタイリングやコーディネートを考える時、「いつ、どこで、だれ」と会うかといった、TPOが大切と教えられます。

TPOに関して厳格なルールブックがある訳ではないですが、ビジネスは結局、人とのコミュニケーション。
仕事服のスタイリングには「個性の表現」よりも「相手に対する礼節」という意味が多くを占めます。

なんの映画か忘れてしまったのですが（笑）、ある洋画のワンシーン。
取っておきのスーツを身につけて出社すると、同僚から「今日は何か特別なアポがあるのかい？」という声かけがあるシーンが印象的でした。
わざわざそんなシーンをつくること自体が、「TPOをわきまえてスタイリングをする意識が高い」という文化を表しているように感じます。

以前ニューヨークに本店を置くブランドでセールスとVMDを兼任で働いていたとき、「我々は、世界で活躍するビジネスマンのライフスタイルにおけるワードローブを提案している。だからインターナショナルで知的なエッセンスは欠かせない......」というような教えを受けました。

ビジネスウェアは単なるファッションではならないと思っていますし、クールビズ、ニューノーマルといった環境に対応した着こなしも「相手に対する礼節」が叶うように配慮を忘れないようにしたいですね。

━フレンチコレクションをつかったおすすめのコーディネートを教えて下さい

林　例えばこのようなクラシックなシルクプリントタイと、ブルーのシャツのコーディネートはどうでしょうか。

ボタンダウンシャツというとアメトラな印象ですが、ネクタイに独特の鮮やかな発色があり、フレンチトラッドなコーディネートになりますね。
ひし形の小紋柄が印象的なシルクプリントタイです。

ネクタイが目を引くので、シャツはシンプルにブルーの無地でバランスを取っています。